光学活性化合物は医農薬、液晶材料の開発に極めて重要です。我々は最近、直接エナンチオ収束反応という新しいカテゴリに属する不斉合成反応を発見しました。この反応は、エナンチオマーの等量混合物であるラセミ原料のそれぞれのエナンチオマーから、異なった反応機構を経て単一の目的物エナンチオマーを生成するという過去に例のないもので、ラセミ化合物原料から効率よく光学活性化合物を合成できる点が特徴です。(下図)
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ラセミ体を原料として不斉合成を行う場合、速度論的光学分割(下図a)(ラセミ体に含まれる二つエナンチオマーのうち片方のみが別の化合物に変換される)を利用する場合がもっとも一般的ですが、出発原料のうち半分しか目的化合物に変換されないという欠点があります。これを補うものとして動的速度論的光学分割・変換(下図b,c)という手法が開発されましたが、しかし、反応系中でラセミ化が可能な化合物は限られているため、その適用範囲は限界がありました。
我々が発見した直接エナンチオ収束反応(下図d)では、原料の片方のエナンチオマーが生成物の一方のエナンチオマーに変換される反応が進行すると同時に、これと独立して原料のもう片方のエナンチオマーが同じ生成物のエナンチオマーに変換されます。この反応では、ラセミ体基質をすべて光学活性化合物に変換できるにもかかわらず、ラセミ化あるいは対称化過程を含まないため、旧来の方法の欠点であった基質のラセミ化が不必要になり、適用可能な基質が飛躍的に増大する可能性をもちます。これは不斉合成の可能性を大きく広げる発見です。
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