RESEARCH

研究紹介

我々の研究室では、有機化合物と他の元素(ケイ素・ホウ素・リン・典型元素・遷移金属)を組み合わせることで、新しくて役に立つ合成反応・機能材料・触媒の開発を目指しています。有機化学における新しいコンセプトを打ち立てることで、新しい研究分野を創出したいと考えています。
また、この研究室では、学生さんたちに高いレベルの研究を行ってもらうことで、将来研究分野の第一線で活躍するパイオニア的研究者の教育・育成を目指します。
また、多くの企業や国内・海外の大学と共同研究を行い、研究をさらに広げています。

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    有機ホウ素・ケイ素化合物の選択的合成法の開発

    有機ホウ素・有機ケイ素化合物は、有機合成化学において幅広く利用されています。これら有機金属反応剤は高い安定性を持ちながら、適切な試薬や遷移金属触媒により活性化され、多様な反応性を示します。また,それら有機化合物そのものが,医薬品や機能性有機材料として有用であることも明らかにされています。しかし、高度に官能基化された有機ホウ素・有機ケイ素化合物の合成は未だ困難であり、新しい選択的合成法の開発が求められています。 [caption id="attachment_17088" align="alignnone" width="1280"] 有機ケイ素化合物と有機ホウ素化合物の新しい合成法[/caption] 私たちは1998年に、銅(I)触媒を用いたジシラン化合物をケイ素化剤とする求核的ケイ素化反応を発見しました。さらにケイ素化合物とホウ素化合物は遷移金属に対する反応性が似ていることを手がかりに、銅(I)触媒を用いたジボロン化合物をホウ素化剤とする反応を検討したところ、共役カルボニル化合物への付加反応が進行することも見つけました。これらの発見を手がかりに、有機ホウ素・ケイ素化合物の新しい合成法を数多く開発することに成功しました。さらに最近では、量子化学計算を駆使したキラル銅(I)触媒の合理的設計、ならびにケイ素求核剤の前駆体として働くシリルボラン化合物の一般的合成法の開発にも成功しました。今後も有機ホウ素および有機ケイ素化学の限界を押し広げるべく、研究を進めています。
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    メカノケミカル有機合成反応の開発

    これまで膨大な数の有用な有機合成反応が開発されてきましたが、それらのほとんどは有機溶媒を用いて溶液状態で行われています。しかし、反応総重量の80%以上を占めると言われている溶媒は、そもそも反応の物質収支には含まれない無駄な存在であり、環境負荷や廃棄物増大の大きな要因となっています。このような背景の下、溶媒を用いずにボールミルによって合成反応を実施する試み(メカノケミカル合成)が注目を集めています。メカノケミカル合成ではボールミルの強い機械的攪拌を利用することで、効率の良い無溶媒反応を可能とします。しかし、精密有機合成反応への応用は限定的であり、その合成化学的有用性は不明確でした。 [caption id="attachment_17091" align="alignnone" width="1280"] 最先端の化学!メカノケミカル有機合成反応の開発[/caption] 私たちは、”ボールミルでのみ可能な反応”の開発に焦点をあて、メカノケミカル有機合成の研究を2018年からスタートさせました。その結果、固体状態でのみ実現可能な選択的有機合成反応、不溶性化合物の分子変換、さらに従来の有機合成化学者がほとんど利用してこなかった機械的な力を活用する新反応の開発に成功しました。この研究は、基礎的な学問としての発展だけでなく、社会が必要とする医薬品、生理活性物質、有機分子材料を有害な有機溶媒を極力用いずに供給する新たな環境調和型合成手法の創出に貢献します。今後もこのメカノケミカル有機合成の可能性を探索していきます。
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    分子結晶工学に基づく固体有機材料の開発

    我々の生活に役に立つ材料の多くは「固体」です。私たちの研究室では、様々な元素を活用した機能性分子を設計・合成し、それを綺麗に並べた固体である「結晶」を作ることで、新しく豊かな機能をもつ分子結晶を創り出しています。結晶は通常内部の原子や分子が固定されていますが、私たちは結晶外部からの刺激や環境の変化に応答して、「結晶内で分子が動く」ことに着目して研究しています。分子を結晶中でどのように「並べるか」、さらにどのように「動かすか」は分子の合成の研究に比べて研究がまだ進んでおらず、化学の未踏領域です。 私たちは、2008年に「可逆的発光性メカノクロミズム」と呼ばれる特性を持った化合物を世界ではじめて発見しました。この化合物は紫外線照射下では比較的弱い青色の発光を示しますが、この錯体に「こする」などの機械的刺激を与えると、こすった部分のみ鮮やかな黄色発光を示します(下図)。また、この化合物にジクロロメタンなどの有機溶媒を加えるもとの青色発光に戻すことができます。 [caption id="attachment_17093" align="alignnone" width="1902"] 世界初の可逆性発光性メカノクロミズム[/caption] [video width="640" height="480" mp4="https://c-mng.cwh.hokudai.ac.jp/itogrouphp.eng/Root/wp-content/uploads/2023/02/81ecb1b056fdd985494d120cab997af2.mp4"][/video] 研究さらにを推し進めて、小さな機械的刺激でドミノ倒しのように分子が自発的に変化する「分子ドミノ」を世界ではじめて発見しました。さらに、機械的刺激でジャンプする「サリエント結晶」、強弾性や超弾性を発光性結晶とその性質を利用した「ダンスする結晶」、そして結晶の一部分が高速で回転する「結晶性分子ローター」   [caption id="attachment_17095" align="alignnone" width="1248"] 発光性分子結晶が示す機械的刺激による分子ドミノ型単結晶-単結晶相転移と発光色変化[/caption] [video width="1280" height="720" mp4="https://c-mng.cwh.hokudai.ac.jp/itogrouphp.eng/Root/wp-content/uploads/2023/02/9eb6dd5862f5599b7d707d6743bbba8c.mp4"][/video] [video width="960" height="540" mp4="https://c-mng.cwh.hokudai.ac.jp/itogrouphp.eng/Root/wp-content/uploads/2023/02/af02c7f587c2cc424e262b2a575dc4c7.mp4"][/video] [caption id="attachment_17094" align="alignnone" width="912"] 結晶中で分子が回転する「結晶性分子ローター」と固体発光[/caption]  
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    共同研究(企業・国内と海外の大学)

    我々は研究で明らかになった知見や技術を、国内の企業様との共同研究を通じて、社会に還元したいと考えています。共同研究・知財のライセンス提供のほか、社会人博士課程へ入学も歓迎します。 北海道大学 産学・地域協働推進機構 特に我々が2018年から研究を行っているメカノケミカル有機合成は、反応溶媒の大幅な削減、反応の高速化、不溶性基質の変換、機械的な力による固体基質の活性化など、これまでの溶液系有機合成にはない多くの特徴があります。これらについて、企業様・国内外の大学との共同研究を推し進めています。「ある反応をメカノケミカルで行いたいが、最初の一歩が踏み出せない」とお考えの方は一度ご連絡ください。例えば当研究室で初期の条件検討を実施するなどのお手伝いをできればと考えています(企業の場合における知財の扱いについては要相談)。

    特許リスト(2022年12月現在)

    出願14件(セット) 公開済み10件・未公開4件
    • [14] 特願2022-194076(ホモカップリング反応方法)出願日:2022.12.5 出願人:国立大学法人北海道大学
    • [13] 特願2022-151597(りん光発光イリジウム錯体のメカノケミカル合成)出願日:2022.9.22 出願人:国立大学法人北海道大学、三菱ケミカル株式会社
    • [12] 特願2022-096046(芳香族化合物の製造方法)出願日:2022/6/14 出願人:日本化学工業株式会社、国立大学法人北海道大学
    • [11] 特願2022-033684(メカノケミカル反応用添加剤、メカノケミカル方法、配位子化合物及び錯体)出願日:2022.3.4 出願人:国立大学法人北海道大学
    • [10] 国際公開2022/196796(有機金属求核剤の製造方法、及び有機金属求核剤を用いる反応方法)出願日:2022.3.18 出願人:国立大学法人北海道大学 特願2022-551338 US-1- 17/996070 EP-1-22771541.4 CN-1-2022111800607830
    • [9] 特開2022-072538(化合物)出願日:2020.10.30 出願人:国立大学法人北海道大学、三菱ケミカル株式会社
    • [8] 国際公開2022/092260 (反応方法及びその反応に用いる装置)出願日:2021.10.30 出願人:国立大学法人北海道大学
    • [7] 国際公開2021/177290 (脱離基を有するモノクロスカップリング芳香族化合物の製造方法)出願日:2021.3.2 出願人:国立大学法人北海道大学 特願2022-504388 EP 21764165.3 US 17/908197
    • [6] 国際公開2021/045207(圧電材料を利用するメカノレドックス反応及びその反応を用いる製造方法)出願日:2020.9.4 出願人:国立大学法人北海道大学 特願2021-544060 EP 4026821.A1 US 2022306654.A1 CN 114364661.A
    • [5] 特許7023019(溶媒を使用しないクロスカップリング反応及びその反応を用いる製造方法)出願日:2019.10.23 権利者・出願人:国立大学法人北海道大学 WO-A-2020/085396 US-B-11453678 CN-A-112888668 EP-A1-003872055 IN-A-202147022197
    • [4] 特許6635639(2,3-ビスホスフィノピラジン誘導体、その製造方法、遷移金属錯体及び不斉触媒並びに有機ホウ素化合物の製造方法)出願日:2019.3.1 権利者・出願人:日本化学工業株式会社、国立大学法人北海道大学 WO.2019172150.A1 CN.111655708.A  US.11084835.B2 IN20207029665
    • [3] 特許6547087(光学活性な2,3-ビスホスフィノピラジン誘導体、その製造方法、遷移金属錯体及び有機ホウ素化合物の製造方法)出願日:2018.9.28 権利者:日本化学工業株式会社、国立大学法人北海道大学 WO.2019069828.A1 US.11053265.B2 CN.111032668.B IN202037018026
    • [2] 国際公開2018/159628(アミノ酸型アシルボランおよびその製造方法)出願日:2018.2.27 出願人:国立大学法人北海道大学 特願2019-503031
    • [1] 特許6444054(有機ホウ素化合物の製造方法)出願日:2014.5.2 権利者:富士フイルム和光純薬株式会社、国立大学法人北海道大学

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伊藤 肇 教授

E-mail: hajitoeng.hokudai.ac.jp